『ロデリック・ハドソン』
ヘンリー・ジェイムズ/訳:行方昭夫
ヘンリー・ジェイムズの初期長編作『ロデリック・ハドソン』(1875)。
60年ぶりの新訳。講談社文芸文庫。
物語の主人公は、若き彫刻家のロデリック・ハドソンかもしれませんが、この小説の根幹をなすのはパトロンのローランドです。
ローランドの「視点」をおもしろがる小説なのである。
というわけで、あらすじはあんまり珍しくない話。
有閑階級のローランドが、田舎でくすぶっているロデリックの才能を見出し、一緒にパリに連れて行く。そこで才能を開花させるも、絶世の美女クリスティーナに夢中に。本業もおろそかになり、ついでに田舎から母と許嫁が来るがそれで快方に向かうわけもなく…。
う、うーん。
ですが!
「視点」のローランドが、とにかく有能。
天性の心の余裕と、働かなくても良い懐の余裕。最高か。
神が創りたもうた美男美女の象徴であるロデリックとクリスティーナはあまり深みのない人間なのですが、それらに対するローランドの考察・真摯さが良い。
腹立つ言動に対しても、冷静に「なぜ彼(彼女)がこういう態度をとるのか」を分析できるし、自分の言動もコントロールできる。
え?ロデリック、すごい底が浅くない?ダメじゃんこいつ!
え?ローランド、そう返すの?めっちゃ勉強になる〜、
と、我が身を振り返って恥入りつつ、めっちゃ楽しい。ローランドが。
おまけに自分への好意には鈍い。意外とモテる。マダムキラーでもある。
パーフェクトヒューマンか!!
ヘンリー・ジェイムズは「視点」を採用した「心理小説」の先駆けと言われています。
確かに、近頃読んでいた19世紀フランス小説とは語り口がずいぶん違うなあ、と。
古典は時代の潮流みたいな周辺情報込みで読むと学びが深まって良いですね。